日本の木の家づくり(株)中島工務店

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山の話

森林と家づくり(3)

東濃ヒノキの産地では話題になることが少ない
「カラマツ材」について書きましょう。

自宅から清流馬瀬川を遡ること20km、
源流部は太平洋側と日本海側の分水嶺となる
「西ウレ峠」に至ります。

ここには日本の固有種で、
春の芽吹き、秋には黄褐色の葉が美しい
「カラマツ」の造林地が登場します。

カラマツの天然分布は、
宮城県以西の関東、中部地方で、
赤石山脈や北アルプスの日当たりの良い
乾燥した場所に残っています。

人工林は、長野や北海道などで大面積に植栽され、
岐阜県ではこの峠を越えて北に進むにつれ、
高山市清見町夏厩、荘川町尾神に、
朝日町では秋神、胡桃島、千間樽など御嶽山麓に、
飛騨市に入ると旧上宝村明が谷、
立平から平湯にかけて、
下呂市小坂町では濁河周辺などに
大面積のカラマツ林が広がり、
その面積は約1万5500ha、蓄積はおおよそ307万㎥。

平均的なha当たり材積等からみても
しっかりと成長した
45年生を超える林となっています。

カラマツが精力的に造林されたのは、
昭和30年代後半から40年代で、
成長が速いため短伐期による
量生産を目指した造林が進められ、
火山灰質土壌では良い生育を示しますが、
適地を超えたカラマツ造林が拡大し、
尾根部などの風衝被害による
不成績地さえ出るほどでした。

順調に生育した林地では
間伐が実施されるようになり
50年代以降になると間伐材の出材が始まりました。

若齢期のカラマツ材は曲がり、狂いのほか
脂が多いなどの欠点が顕著であることから
「使い物になるのか」と将来を懸念し、
造林を勧めた林野行政批判にまで及ぶほどでした。

そのころ森林計画を担当していたので、
主伐できる森林が次第に枯渇している状況から
収穫は主伐は減らし
間伐で木材供給を支えなければならなくなると、
資源的に厳しくなることを
計算上から予測していました。

木材価格が高かった当時でさえ、
間伐材の採算性が議論されており、
そしてカラマツが建築用材として台頭した時、
利用の可能性について、大きな期待と
材質についての懸念が交錯していました。

その後、平成3年春、久々野営林署勤務となり、
担当区事務所をカラマツ材で
新築することとなりました。
カラマツ材を、構造用はもとより外装材、
そして木製サッシにも用いました。

当時、建築にカラマツを用いた例は少なく、
曲がりやすい、狂いやすい、脂が出る等の
欠点が指摘され、材価も安く需要も伸び悩み、
間伐も進まない状況でしたから、
将来の収穫期を迎えるまでに需要分野を開拓する
という夢を込めた挑戦でした。

したがって、この建物は、地域のシンボルになり
若者にも魅力的なものになることなどを考慮して、
八角形の斬新的な事務所としました。

建築物の構造的には、
カラマツの良さを表現した「あらわし天井」、
外壁は含水率15%以下として「本ザネ加工」を、
木製サッシは含水率12%以下にしました。

木材の産地は、寺附国有林(現高山市朝日町)で
大正7年植栽の73年生、材積は8.84㎥でした。

また、平成5年には、付知営林署において、
カラマツの曲がり・狂いや脂を克服するための
乾燥技術に関する研究資料を収集して
一般に公開するなど
カラマツに関して業界等へのPRを行いました。

さて、国有林から離れ15年以上が過ぎました。
今回の取材によれば、昨年(平成24年度)の
岐阜県内のカラマツの収穫量は、
概ね2万1千㎥とみられ、総収穫量の14%を占めて、
すべて間伐材となっています。

素材生産は、森林組合のほか
数社の林業事業体によって実施され、
素材丸太のほとんどが
「岐阜県森林組合連合会飛騨支所の共販所」に
集荷され、カラマツ材は、
年間取扱量の34%に当たる約15,500㎥で、
大部分が合板用として
県内及び北陸の合板工場に出荷されています。

中島工務店が建築に使用する木材は、
ヒノキの主産地であることから、
柱材はもっぱら東濃ヒノキ、
梁・桁にはスギが使われており、
カラマツの登場は極めて少なくなっています。

カラマツが使用されるのは
公共工事や顧客の要請によって
長スパンの梁を要する建築物などの場合は、
強度が要求されるのでカラマツの集成材とし、
その集成材用のラミナとして
年間約120㎥程度使用しています。
材の入手先は、上記の岐阜県森連のほかに
北海道となっています。

カラマツは、スギに比べて強度が高く、
長スパンの梁材には適しているほか、
美しさでも好評のうえ、
材価は、スギに比べて安価で、
特に北海道産が安くなっています。

平成3年に建設した八角形住宅は、22年が過ぎて
国有林の組織機構こそ変貌を遂げましたが、
事務所は堂々と当時のままの佇まいを残し、
気密性は良好で木の温かさが感じられて
快適となっていました。

最大の課題ともいえる脂については、
脱脂技術が進んでいなかった当時は、
外壁材の表面の一部に
樹脂が小さな玉状に出たこともありましたが、
その後防腐塗装が施され
問題はないと記録されていました。

(中島工務店 総合研究所長 中川護)

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