日本の木の家づくり(株)中島工務店

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山の話

森林と家づくり(4)

カラマツは曲がる、狂うという
欠点ばかりが表面化し
カラマツの良さ、利点が語られることが
あまりありません。

多様化する木材利用の場合も、
これまでの認識や見方を変えれば
カラマツの利点が生きてきます。

日本固有の天然カラマツは限られたエリアしか
残っていないので目立ちませんが、
春の柔らかな黄緑の芽吹きはとても素敵です。

また、秋の夕日に映える黄褐色の景色は
天竺の雲のようです。

アメリカの作家ハリーハリソンの
SF小説「人間がいっぱい」の映画版(1973)では、
人間増加で資源が枯渇し
人間が生きられる限界と化した
50年後の未来社会アメリカ・マンハッタン市。

安楽死を選んだ老人が訪れる「ハウス」では、
この世の最後に差し出されたワインを飲み
ベッドに横たわると、
美しい地球上の自然の景色が
部屋中のスクリーンに映し出され、
カラマツの紅葉シーンは印象深く覚えています。

また、材質についていえば、
あちこち出回るほどの量はありませんが
天然のカラマツ材は
樹齢が多いものほど材質が優れ、
赤褐色の光沢があって素晴らしく、
内装材や家具材として優れています。

さて、カラマツの研究といえば
東京大学教授嶺一三博士です。
大学を卒業後東大兼務のまま林業試験場に勤務し、
「収穫表に関する基礎的研究と信州地方
カラマツ林収穫表の調整」(1955年)は、
国有林に勤務した当時の貴重な教材で、
収穫(予想)表作成のお手本でした。

収穫表とは、
ある樹種の成長条件が近似している地域において
その樹種が同一の取扱法で施業された場合の
単位面積から生産される材積や
その径級、樹高などの基準的数値を
年齢や地位(土地の善悪)ごとに示した表です。

また、病気に関しては、
かつて東北地方、北海道で大発生した
「カラマツ先枯病」で、
林業試験場等による多くの研究報告があります。

いずれもカラマツの
生育期間中の風当たりのよい場所に
被害が著しいことが明らかになって、
保護樹帯などで
風当たりを少なくすることによって
発生を激減させることができることも
解明されました。

カラマツは、育苗が容易であること、
植樹の場合に苗の活着が良いこと、
寒さに強く瘠せ地でも育ちやすいこと、
初期の成長が早いこと、病気に強いことなどから
造林樹種としては優等生で、
木材需要が大幅に増加することが予測された
戦後の植林全盛期時代には、
カラマツのような短伐期林業が台頭し、
その花形として多くの造林地がつくられました。

しかし、今から考えると
「カラマツを短伐期にしたのは謎」
とさえ思われるところがあります。
将来の収穫量をより多く見込むために
成長予測を恣意的に早め、
伐期齢を早めた政策がとられたのではないか。

そんな疑惑が脳裏をかすめるのです。

この夏、かしも木匠塾に参加した大学生から、
森林の収穫時期はどのように決められるのですか
と質問されました。

この答えは少し専門的になりますが、
森林の「伐期齢」で決められるのです。

伐期齢とは、森林の収穫時期を定めたもので、
果物や農作物と同じように
森林の収穫時期を表すものです。

森林は植林してから長い期間を要して成長し、
大きくなると木材として利用されますが、
その成長量の年平均が「最大」となる時期
としています。

厳密には、伐期総平均成長量
(伐採する時の材積(間伐も含む)を伐採年で除した値)
が最も多い時期を指します。

つまり、カラマツのように70年、80年生になっても
成長力が旺盛な森林は伐期齢が遅くなるのです。

ところが、スギやヒノキに比べて
カラマツの寿命を恣意的に短く設定し、
早い時期に伐期齢を設定することで
収穫量を多く予測する
トリックを仕掛けたのではないか。

そんな疑問すら浮かぶのです。

まじめに考えれば、当時は高齢級になった
カラマツ人工林の森林が少なかったこともあって
十分な資料を得られなかったので、
カラマツの伐期齢を45年程度と
早めた計画がつくられたのです。

結果的に、まだまだ育ち盛りのカラマツ林を
短命だと決めつける結果となったのです。

今になって、その林齢を過ぎても
なお堂々と成長を続けている
カラマツ林を見るたびに、
愛おしさなど呵責に苛まれます。

森林計画を樹立するうえで、
伐期齢は決められたルールで
理論的に(ある面では機械的に)
決めなければなりませんが、
この場合でも、実際の伐採は利用径級を考慮して
決定することとしているので、
必ずしも機械的に
森林が伐採されることはありません。

さらに、木材の材質については、
樹木は全て髄から1年ごとに
外側に年輪が数を重ねて成長しますが、
形成層(お母さん細胞)が年齢を増してから
生む細胞は(樹齢が高くなるほど)
曲がり・狂いが少ないことが明らかになりました。

そのため近年になって需要構造の変化もあり、
長伐期大径材生産を指向する施業が
行われるようになりました。

橋爪丈夫先生(長野県林業総合センター)の論文
「長野県産カラマツ構造材の強度特性に関する研究」
では、多くの既往の研究を踏まえ
カラマツ材の利用に関する
詳細な研究が進められました。

一方、業界においても
木材の乾燥技術が高度に発展し
カラマツの利用は拡大しています。

長い期間を要して成長を続ける
カラマツの森林やその木材がSF小説ではなく、
今後さらに50年後となれば、
枯渇寸前の木曽ヒノキやケヤキの天然木を超えて
貴重な高級品になることは必至でしょう。

(中島工務店 総合研究所長 中川護)

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